鍵のない檻4
 
 
 
 
「ふざけるな」
かつてない程の怒気を孕んで、長髪の優男が怒鳴りつけた。
普段は真面目面のくせにふざけてばかりで本気で怒ることなど無い男だった。一見は紳士といった風情。偉そうなモールのついた制服が生真面目そうな端正な顔立ちによく似合う。
武力を放棄して攘夷を果たそうとした心の広さをもつその男は、実際紳士といっても差し支えないだろう。
女のような優しい顔をした男も大物らしく怒ればチンピラ程度なら蹴散らせるようなオーラを放つ。その上に新政府の高官の肩書きをそえられては誰も太刀打ち出来ない。
だが、怒鳴られた方の男はそれ以上の大物だった。
 
「うるせぇ。怒鳴るな」
 
余裕の構えで静かに返答した。
怒鳴り散らす桂小太郎とは対照的に、しゃあしゃあと上座のソファーにふんぞりかえりながら足を組む。
桂はきちんとした礼服だが質素な黒の着流し、頭には包帯を巻いて右目を隠している。左目の鋭さがそれによってより引き立つようにギラギラと輝いていた。格好は浪人でも一目見ればこちらも大物であることがわかる。
 
禍々しいなオーラを放つが、それはどこか人をひきつけてやまなかった。蜜の味の毒に惹かれていまや世の中はこの男、高杉晋助に酔っているといっても過言ではない。
 
「無いわけがないだろう。会議に不参加だと?何を考えてるんだ貴様は!」
 
桂は苛立ちのままに拳を握り締めて装飾がほどこされてキラキラ光っているガラスの机にたたきつけた。
同時にティーカップが音をたてて揺れた。
暖かい紅茶は確かに心地よく鼻をくすぐる香りだったが、高杉は天人のものはどうも気に入らなかった。
 
「テメェは俺に文句があるらしいが俺にも文句があるぜ、ヅラァ。この館はどうも気にいらねぇ。どこもかしこも天人から仕入れたもんばっかで息がつまりやがる」
 
陶器で出来たポットに妙な模様の絨毯、真上を見上げなければ見えないほと高い天井に装飾のついたシャンデリア、大きな真っ白な柱を見渡しながら不快さを隠そうともせずに高杉が言った。
「話を摩り替えるな。随分な度胸だな貴様」
「度胸がなきゃここには座れてなかろうよ。それよりおい、畳の部屋用意しろよ。天人ってのは女だらけか?無駄な飾りが多すぎらァ」
「いいから聞け高杉。貴様はまず新政府総督という立場を認識すべきなのだ。この国を背負って立つ代表だ。そして今は、ようやく地球という星が天人と対等に暮らしていける絶好の機会なのだぞ」
 
まるで親が子に言うような諭す口ぶりで桂が言った。
 
「対等、ねぇ。天人の言いなりになるつもりはねぇがなぁ」
 
高杉は皮肉たっぷりにニヒルな笑みを浮かべた。
頭の中に天人の姿を思い浮かべる。あれは人間を下等生物としか扱っていないということを賢明にも悟っていた。
 
「確かに技術では天人がはるかに勝っている。今何人もの技術者が天人から必死に学び、追いつこうとしているのだ。これらの原因は今までの閉鎖された対宇宙関係のせいだ。幸いにも地球には他の星には無い住みやすい環境や資源が豊富にある。今から我々は宇宙に進出し、そして…」
桂の語りがますます熱を帯びてきたところで高杉がうんざりした顔をした。
「あー、もういい。こちとらお前の理想論は聞き飽きてんだ」
「貴様が理想を抱かずどうするのだ。坂本の資金援助と仲介で何とかなっているものの、新政府はまだまだ未完成だ。今が大事な時期なのだ」
「くく。要するに天人に尻尾ふりゃいいわけだ」
「そうは言っておらん。だが…必要なこともある」
「綺麗な言葉で言ってるだけのことじゃねぇか」
 
鼻で笑い飛ばすように言うのを見て、桂は言葉を詰まらせた。
昔の戦争を思い出したからだ。桂も口で必要とは言いながらも自分も戸惑っていた。
かつて最前線で戦ってきた天人に頭をたれること。
天人に迎合した幕府を恨みきれないほど憎んだこと。
しかし心の中で自分に言い聞かせた。
俺は悟ったのだ。屈辱が必要なこともあると。幕府が腐っているのは事実だった。だから今、自分等が新政府をたててこうして世のためを思っているのではないのか。
高杉をと見やると、自分を見下すように笑っていた。
心が揺らいでいるのをみすかれている気がした。
 
「もういい。天人への対応には俺が応じよう。お前は顔見せ程度で構わない。…しかしお前には総督という肩書きがある。お前の了承無しには俺も自由には動けん。どんな優秀な人材が素晴らしい案を出そうと、外交案を出そうと」
「テメェは何が言いてぇんだ?」
鋭く高杉が言い放つ。桂が覚悟を決めた顔をして、書類を差し出した。
「これにサインしろ。何が何でもだ。すれば会議に不参加で構わない」
有無を言わせない態度でそう言った。だが高杉は見向きもしなかった。
「お断りだな」
 
内容が大体わかっていた。
回りくどい話を聞きながら、これのことだろうなとおおよそ検討もついていた。最初っから話を聞く気もなかったのだが。
『旧幕府の対処について』と書類の見出しにはあった。
 
「旧幕府の要人は始末せねばならない。早急に松平片栗粉と真撰組幹部を処刑しろ」
「二回も言わせるんじゃねぇ。断る」
「…無名の隊士は自分が真撰組であったことを誓約させることとこの後も監視下で生きることを条件にすれば軽い刑で構わない。それは奴等の侍らしい毅然な姿に免じて俺も納得したことだ。だが幕府の要人を生かしておくことは出来ない。それが新政府のケジメだ。お前もわかっているだろう」
気迫迫る様子で桂が言った。
「関係ねぇな」
「なぜ今まで散々幕府の要人を殺しまわっていた貴様が真撰組にこだわるのだ」
「武士に二言はねぇだろ?テメェも一度は納得したことだろうが」
「無名の隊士は軽い刑で構わないと言っているだろう。松平や近藤まで見逃すわけにいくか」
「…土方だけは俺の好きにすると言ったときも納得したじゃねぇか」
「俺は何か正当な理由があるのだと思っていたからだ!気まぐれなお前のことだ、表向きは流刑ということにして天人に実験体として差し出すか己でペットにしてじっくりと嬲り殺すものだと思っていた。あの男は影で天人に疎ましがられていたからな。真撰組の約束のことなど守る気がないとも思っていた。むしろ、俺がお前に真撰組の罪を軽くするように諭そうと思っていたのだぞ」
「勝手な勘違いをしてくれたもんだ」
「…全くだ。お前を信用した俺が馬鹿だった」
「その通りだなァ
「…今はもう理由を聞く気はないぞ。聞いたとして俺は納得せん。殺せ」
「安心しろよ。話す気もねぇ」
「奴等は俺達が殺すのではない。時代が奴等の死を求めているのだ。幕府は終わったんだ、何もかも」
 
高杉は聞く耳ももたずにまた笑った。桂が子どものように見えたからだ。
ゲームは終わったんだ、ラスボスを倒したのにどうしてエンディングにいかないんだよ。
自分の思うとおりになるはずだったのに、どうしてならないんだと喚くガキだ。
思えば昔からそういう所があった。賢くて真面目なわりには間抜けな男。
 
「…さぁ、サインを」
制服のポケットから高そうな万年筆を取り出して無理矢理高杉に握らせた。
桂がにらみつける中、筆を床に落としてやった。お前の思い通りにはならないのだと言い聞かすように。
「残念だったなァ」
桂が絶望と苛立ちに端正な顔を歪ませて、唸った。
手を組んでしばらく考え込むそぶりを見せる。組んだ拳が微かに震えていた。
「こんな噂は嘘だとばかり思っていたが…」
俯いて長髪を前にたらしたまま桂が低い声で言った。
「あ?」
「あの噂は本当なのか。真撰組を復活させるとかいう、有り得ない噂だ」
わざわざ有り得ない、を強調して言う。
そうであることを祈るかのように。
「そのうちわかるんじゃねぇか?せいぜいそれまで祈ってろ」
「…貴様…まさか…」
震えながら高杉を見上げる。信じられない、といった面持ちで。
「さぁな?」
高杉は口の片端をあげて、面白そうに酷い顔をしている桂を見た。
「本気、なのか。嘘だろう。あんなに敵視していたお前が。なぜッ」
綺麗に整えた長髪を振り乱し、目を見開いて噛み付くような勢いで急いで言葉を並べ立てる。
息を肩でしながら、酸欠になりそうな様子を見て高杉は興醒めしたような顔をした。
 
  俺がどうして十四郎を殺さなければいけないんだ。
内心でそう呟いた。
 
「許さない」
桂は呆然としたのちにさっきから一転し、今度は歯軋りをしながら怒りをあらわにした。
心の中で感情が爆発し、じりじり胸を焦がして燃え上がる。
「絶対に許さない。いや、許されない」
今度は両方の拳を振り下ろし、立ち上がった。
「俺個人の問題ではない!俺が許すとか、そういうことではないのだ!お前はなぜ社会的立場をもっても我を通そうとするのだ!お前は、お前はっ」
炎が脳ミソまで侵食して言うべき言葉を見失い、息使いを荒くしながら立ち尽くした。
もう少しで俺の、今までの気持ちも夢も全てすくわれるのに。
なぜ。なぜ。
お前の部下になったのも全てこのため。武闘派のお前に飲み込まれてもただじっとしていたのは、信念を曲げるようなまねをしたのは、お前なら世界をしょってたてると思ったからだ。なのにこのざまは何だ。
言葉が桂の頭の中で溢れかえった。頭の中でひたすら、「なぜ」を繰り返す。
 
しかし次の瞬間に頭の中は真っ白になった。
背中が悪寒に震えて冷や汗が伝い、電流が走ったかのように体が硬直した。
死ぬ、と直感的に思った。
味わったことのないような黒い恐怖を感じた。
 
高杉の顔を真っ直ぐ見る。
鋭く抉るような視線が恐怖の根源だと理解した。逃げたくても地面から恐怖が足を縛り付けて離さない。
ナイフのように研ぎ澄まされた殺意がぎりぎりと背中を撫でているのを感じた。
汗が止まらない。息が出来ない。言葉を発したいがそれも出来ない。心臓の鼓動が耳の奥で鳴り、だんだんと大きくなっていった。
パン、と弾けた音がする。これは何の音だろう。警戒音だろうか。
 
「黙ってろ」
 
地獄の底から聞こえるかのような低い声がした。
嘘のように空白ともいえるような無音の時間が流れた。時計の針の音も、さっきまで聞こえていた心臓の音も聞こえなくなった。
時間が止まってしまったのかもしれない。そう思いながらも、自分の心臓が止まってしまったのではないかという不安にもかられた。
 
「俺はやりたい通りにする。そのために手に入れた地位だ。俺の邪魔は誰にもさせねぇ」
高杉が椅子を撫でた。
総督しか座れない、権威をあらわす真っ黒な椅子。指先で触れながらうっとりと思い出に浸っていた。
「ようやく、2人で暮らせる時がきた」
何の話なのか、桂にはわからなかった。だがあんなに恍惚とした満たされたような顔は初めて見た。
恐怖はもはや無い。しかし絶望が襲ってきた。
「お前は、興味が無いのだな。日本の夜明けにも、世の中にも、未来にも」
自分に理解させるように短く言葉を切りながら言う。
「言っただろう。「俺はお前等が仲間のために剣をとったときもそんなもんどうでもよかった」ってな。俺は俺の望みのために動く」
虚無感の中で桂が喘ぐように言った。
「お前を信じて着いてきている者たちは、どうなる。世の人間は」
「ヅラァ、そのためにテメェを生かしてんだろう。偽善者のテメェなら上手くやれるはずさ」
「お前の目的は何だ。世界を壊すことをやめ、新たな創造へ踏み出したわけではなかったのか」
くくく、と声高に高杉が笑った。心の底から桂を馬鹿にした表情で。
「武市かよ、そんな法螺吹いたのは。ヅラァ、おめぇよく信じたな」
桂はいからせていた肩をがっくりと落とし、力のぬけたように足をふらつかせながらソファーに腰を落とした。
「法螺だと?…しかし以前とは変わったはずだ。ただ壊すだけだったお前とは」
脱力気味に桂が呟いた。
「俺が壊すのは俺を邪魔する奴だけだ。もうこの世界になぞ興味はねぇ」
「この世界に興味が無いというならば真撰組はどうなってもかまわんだろう?」
「テメェもしつこい野朗だな」
頭に血をのぼらせながらも、桂は熱くなっている自分を把握していた。
高杉を見やれば、こちらは必死だというのに余裕の風情だ。
元々剣幕だけで押せるような奴ではない。その証拠に、高杉は自分など居ないかのように窓の外を見つめていた。
どうすればいいというのだ。俺の気持ちは届きはしないのに。
 
しかし次の瞬間、桂の脳内に小さな電撃が走った。
さっきから心の片隅にひっかかっている不可解なことがあったからだ。
 
「…土方、十四郎か…?」
そして、さっき思いついた男の名前を呟いた。
元は最強の敵、今は捕虜。
確信はあった。奴の待遇はおかしいと薄々気付いていたからだ。
高杉がこちらを振り向いた瞬間、それは確証に変わった。
視線が深くて重い。さっきの明らかな殺意とは違う、静かな怖さがあった。肌がびくつくような悪寒ではなく、今感じているのは内臓が押し出されるような圧迫感。
 
「あの男に何かあるのだな。そうなんだろう。おかしいとは思っていた…わざわざ連れて来いなどと」
視線の鋭さが増した。
触れてはいけない秘密に触れているのだと桂は薄々思ったが、指摘をやめるわけにはいかなかった。
「土方は処刑せねばならない。我等攘夷派にも恨んでいる連中がどれほどいると思う?」
はっきりと告げると、高杉がまたふいと視線を逸らして窓の外を見はじめた。
真っ直ぐなその視線の先にはあの土方が居る部屋があると気付いた。
言いようのないような不安が胸に渦巻く。
 
記憶を探ってみれば確かに前触れはあった。
奴等と戦争をしているとき、土方の居場所を探らせてわざわざ自分の持ち場を離れてそこにいった。直接対決をするのかと思いきや早々に引き上げ、次からは行くことはしないくせに奴の現在地をやたらと確認した。
確かに土方の知略は脅威で奴の居場所は重要な情報だったが、今となっては殺さぬようにという配慮にしか思えない。
そういえばこちらの勝利の色が濃くなってきた時、ときどき言っていた。
奴等の始末は俺がする、と。
俺は敵方の処刑は少々は残酷な派手な方がいいと思って「お前が適任だな」と返したのに。
 
生かしておいてどうするのか、桂には検討もつかなかった。
 
確かに負けた国のお姫様を手篭めにする…よくある話だ。しかし土方はざんぎり頭の男らしい男だった。鋭い目つきと透けるような色白が高杉に似ていないこともない。
かつては憎たらしい敵の大将だったが、侍として尊敬すべき男でもあった。昨日見たあの男はこんな状況でも生気に満ちあふれていた。桂とて、個人的には嫌いな男ではなかった。やくざ崩れの連中を纏め上げたカリスマ性にどことなく惹かれる部分はあった。
だが、だからといって何なのだろう。お前の隻眼に彼はヒカリには映るまい。
 
「ヅラよォ。覚えてるか?俺がテメェに手を組む話を持ちかけた時のことを」
懐かしむ様子もなく、淡々と高杉が言った。
「…お前はいつになったら人の話を聞くんだ」
「いいから聞いてろ。…俺ァ確かに好き勝手に暴れてた。だがもう全てやめた。テメェの考えにそまってた連中も丸め込んだ、天人も上手く利用したさ」
桂は喉元まで言葉がでかかったが、それを飲み込んだ。
言いたいことは山ほどあった。だがいえなかった。
面倒になるからではなく、何か大事なことを言おうとしているように見えたからだ。
「…ああ」
「結果テメェは弱小派に成り下がり俺の傘下に入ったなァ」
「その通りだ。俺の目的を果たすためだ」
桂はすんなりと頷いた。馬鹿にした物言いだったが腹はたたなかったし、弱小派に成り下がった自分の立場も否定はしなかった。正しいことをしたのだと思っていたし、その結果がそうであるならば仕方が無いと思っていたからだ。だが。
「テメェに目的があるなら好きにしな。だが俺にも俺の目的がある。邪魔をするな」
 
ぶっきらぼうな高杉の言葉に、落ち着いて話を聞いていた桂はまた怒鳴りつけそうになった。
自分の理想と高杉の我侭を同等に並べられたのが許せなかった。
俺は国を憂いて行動をしている。お前のはただの身勝手だ。
だが怒ることよりも落ち着いて、何とか悟すことに専念しようとした。
どちらも自分の考えを喚いて衝突するだけではどうにもならない。
「貴様の勝手は許さんぞ、たかす」
 
が、反論は言い切ることが出来なかった。
喉元に短刀のきっさきを突きつけられて喉をかきさかれる寸前に言葉をなくした。
ごくり、と唾をのみこむ。喉仏が上下するとじんわり嫌な汗の滲んだ肌に雫が伝った。
柔らかな喉の肉と動脈が、薄皮一枚分だけ突き刺さった殺気を孕んだ刃に晒される。
高杉の右手から一直線に自分の動脈にあてられた短刀が銀に煌き、磨かれた背が反射して桂の顔を映し出す。唇の色は悪く、悲しみや絶望の色が濃く刻まれていた。
桂はそれを自分で見て情けなくなった。何という顔をしているのだ、俺は。
「テメェは俺に生かされてる」
 
これまでに無いくらいゾッとした。
突きつけられているのは刀ではなく、事実。
 
「忘れるな。次、余計な事言ったら首が飛ぶと思っとけ」
 
そう言った高杉の寒気がするような目に桂は脅しではないことを悟った。そうして、絶望がこみ上げた。
自分は仲間ではなく部下なのだ。話を聞く価値すらもないという判断を押し付けられ、言う事を聞くしかないのか。
短刀が喉元から離れても、寒気はやまなかった。
事実が桂を打ちのめしていた。
 
高杉が静かに言った。
 
「銀時が来てるらしいなァ」
 
ゆっくりと、桂が頭を上げた。
「何でもテメェが呼んだそうじゃねぇか」
「奴の方から俺に声をかけてきたのだ。何かよぽっどの信念があったに違いなかろう。奴すらもついに世界を変える気になったのだ」
高杉は、投げかけられた嫌味を鼻で笑い飛ばした。
「アイツが政府の高官ってか…似合ねェな」
「お前は紅桜の時も銀時のことを気にしている風だったな。お前にとってアイツは仲間か?」
「まさか」
「俺と同じというわけか。だが思い通りになるような男ではないぞ、奴は」
「ハッ…その言葉そのままお前に返してやる。テメェこそ昔から銀時を仲間にいれてぇクチだったんじゃねぇのか?何にせよテメェが引き入れたんだ、テメェで躾てやんな」
視線はまた窓の外を向いている。
桂はのろのろと立ち上がった。
黒い塊が肩の上にのしかかっているような気がしていた。
「躾が出来るような人間に成り下がっているのなら、な」
桂はふっ、と曖昧に笑ってはきすてた。
すごすごと帰っていく後姿を、高杉は見もしなかった。
ドアノブに手をかけた時に、呟くように言った。
「…高杉。最後に一つだけ言っておくが」
一度言葉を切ってから振り返って高杉をにらみつけた。
「俺もお前の言いなりになりはしない」
 
桂の中で、覚悟が決まっていた。
自分の未来も人の命も、この国に捧げることを。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ホテルのスイート以上の部屋で、土方はソファーに腰をかけて呆然としていた。
監禁された捕虜なんかじゃなく箱入り娘が周りにちやほやされているような状態に混乱し、意味のわからないことも言われて戸惑っていた。
渦巻く思考に本当に目の前が真っ暗になっていると、かすかにノックの音が聞こえて現実世界に引き戻された。
「入るぞ」
高杉なのかと土方は身構えた。しかし言い終わる前に勢いよく扉が開かれ、入ってきたのは桂だった。
昨日も見たはずなのに不安を覚えたのはドス黒い炎が桂の目に見えたからだろうか。
ゾクリ、と背筋が逆立つのを感じた。
何をされてもいい覚悟は決まっていたが、先の見えない不安というのはやはりあった。
一応は捕虜という立場上自分はどうなるかとも聞けず黙り込んでいると、つかつかと桂が近寄ってきて土方を冷たく見下ろした。
ごくり、と唾を飲みこむ。
桂が有無を言わさぬ声で言い放った。
 
「出ろ」
 
土方は一瞬地に目配せしてから素直に立ち上がった。
本当に俺が情報を持っていないことがわかって本来いるべき牢屋にうつされるのか、派手に処刑されるのか。…高杉は結局、何だったんだ。
一瞬でたくさんの事が頭の中を駆け巡ったがどれも途中で泡のように消えた。
結局、たどり着くのは真撰組のことだ。一人の部屋で、そのことばかり考えて飯も喉を通らなかった。
 
部屋を一歩出ると長い廊下が先が見えない位続いていた。
初めてここに来たとき、白い布をまかれていたこと、そして死のイメージを思い出した。
この先に、俺の死が待っているのだ。
 
 
しかし次の瞬間には剣が今にも動脈を切り裂きそうな位置に張り付いていた。
まさかここで殺されるとは思わなかったため、身動きが出来なかった。
予想外の展開に息をのむ。
 
 
「な…」
 
桂が無表情のまま淡々とした口調で言った。
 
 
「土方十四郎。逃亡の罪により今ここで死罪とする」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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ようやく、です。前回の後書きで嘘つきましたすいません。
ようやく出来たと思ったら…!

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